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「国宝展」

十二月 ひと日ひと日が 消えてゆく

東京国立博物館創立150年記念特別展として、12月11日まで同館で開催中の国宝展を鑑賞した。
同館は明治5年{1872}湯島聖堂の大成殿で開催された博覧会を機に誕生した。その目的は、博覧会を通して日本の近代化を図るとともに、日本の文化を国内外に発信すること。そして急激な改革により、危機的状況にあった文化財を守り、博物館に加え、植物園、動物園、図書館の機能を合わせ持つ総合博物館を目指した壮大なものであった。明治2年5月函館戦争が終わり戊辰戦争は終結した。

明治新政府は直ちに版籍奉還に踏み切り、明治4年廃藩置県、郵便制度導入、明治5年新橋―横浜間鉄道開業、明治6年義務教育制度導入、明治7年江藤新平の佐賀の乱、以後新政府に不満を持つ士族の反乱が相次ぐ。萩の乱、秋月の乱、新風連の乱、そして、明治10年西南戦争と続く。まさに国内は混乱と不安定な時期、しかも膨大な戦費と近代化を推進する為の費用、新たな技術の導入のための外国人技術者招聘など。問題山積の中、政府は近代化、富国強兵へと突き進む。その意志の強さと情熱には驚かざるを得ない。

そんな中、当然何の生産性のない博物館や美術館など大きな反対論が当然沸き起こる。しかしその壁を打ち破ったのは、幕末や維新に欧米諸国に派遣された留学生や遣欧使節団として海外に見聞を広めてきた人々であった。その代表的人物は町田久成である。彼は旧薩摩藩士,慶應元年他の18名と共にイギリスへ留学。のち初代館長となった。明治10年{1877}第一回内国勧業博覧会を全国規模として上野公園で開催し、約8万4千点を展示し、3か月余りの会期中に約45万人が来場したという。第二回は明治14年{1881}上野公園で開催。約33万点を展示し、4か月余りの会期中に約82万人が来場したという。「価値の高いもの」「国民の宝」を後世に残すべきとの熱い思いが多くの反対論の扉を開けたのであろう。

さて、今回の国宝展では150年に積み重ねた約12万点に及ぶ収蔵品の中から国宝89点全てが始めて公開された。第一部では、これらを絵画、書跡、東洋絵画、東洋書跡、法隆寺献納宝物、考古、漆工、刀剣の8分野に分け、150年の歴史を分かりやすく展示してあった。特に私が興味を持ったのは、土佐光信筆、室町時代、永正14年{1517}の「清水寺縁起絵巻・巻中」{重文}である。この絵巻は元々清水寺所蔵の物であった。

それが明治の廃仏毀釈の嵐の中で流出する。以前、清水寺・貫主森清範先生よりその経緯と、現在、東京国立博物館にあることもお聞きしていた。この絵巻物は、清水寺開山から約500年の絵巻物であるが、平成27年{2015}[清水寺平成縁起絵巻」として、開山宝亀9年{778}から平成まで約1200年の絵巻物を10年の歳月をかけ、箱崎睦昌画伯によって全9巻として立派に完成した。

その時、貫主より完成記念として全9巻1か月ほど公開してあり、今後、全巻の公開は中々ないとのことで、清水寺を訪問し、森先生と箱崎画伯から直接解説して頂いた。その時思わず貫主に、国に返還を申し入れればどうですか。と発言したら、笑っておられたのを思い出しました。でも、森貫主の時代に完成されたことの満足感を感じるお顔は忘れることができません。
その流出したそのものを見た時、何とも言えぬ感慨にふけった。

さて、89点の国宝はすべて素晴らしい物で、歴史の教科書で見たものばかりですが数点あげれと言われればなかなか難しい。紙面の関係もあり5点紹介します。いずれも国宝展で購入した図録より転載した。解説は一部抜粋。
縄文時代・弥生時代・飛鳥時代などその時代にこんなに素晴らしい作品を作る技術や美意識、人々は何を幸せと感じ生活していたのだろうか、希望や夢は。家族の愛は。自ら治める自治とはどんな形で存在していたのだろうか。などその時代の背景に思いを馳せ鑑賞して来ました。

参考まで令和4年10月現在、国宝に指定されている美術工芸品は902件ある。東京国立博物館ではその約一割となる89件を所蔵し、日本最大の国宝コレクションを誇る。
尚、富山県には、テーマ博物館として、立山砂防博物館があるが、県立総合博物館がない。ないのは、富山県、愛知県、静岡県の3県である。

写真は、
①清水寺縁起絵巻{重文}室町時代・永正14年{1517}土佐光信筆
清水寺の草創と本尊千手観音の利益を描いた絵巻。全三巻33段の構成は観音が33の姿に変えて衆生を救うという数にちなむ。清水寺ヒノキ舞台。
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②遮光器土偶・縄文時代
教科書でお馴染みの土器。極端にデイフォルメされた身体表現と装飾が調和した縄文時代を代表する土器。
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③篇平紐式銅鐸・弥生時代
卓越する特徴は豊かな身を飾る豊かな絵画。
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④龍首水瓶・飛鳥時代
器形に竜をかたどり文様に四頭の有翼馬を配した卓抜な意匠。聖徳太子ゆかりの宝器と言われる。
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⑤自在龍置物・江戸時代
鉄鍛造による150以上のパーツから構成される。首、胴体、尾は自在に屈曲し、頭や手足も可動する。135㎝の大きさながらバランスのとれた姿など完成度は極めて高い。
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